破水からの出産(破水編)

母の日である早朝5時40分、私は破水した。

——いや、正確には「たぶん破水した?」という状態だった。なぜなら、私は1週間前に盛大にお漏らしをし、それを破水と勘違いして病院へ駆け込んだ過去がある。結果は「ただの尿漏れ」。その時の助産師さんは優しく「あるあるですよ」とフォローしてくれたものの、大の大人が「破水したと思ったらおしっこでした」と報告する屈辱は、なかなかのものだった。

だから今回も「またやったか?」と慎重になる。とはいえ、前回とは違い、今回は何度も液体が流れ続ける。しかも無色無臭。パンツを3回取り替えても止まらないので、「これは本当に破水かも?」とようやく気づき、夫に報告。

すると、夫のほうがテンパり始めた。

「病院に電話したほうがいいんじゃない?」

「う、うん……でもまた勘違いだったら恥ずかしいし……」

と破水だったら割と重要な場面ではあるはずなのだが、いかんせん羞恥心が勝る。ゴニョゴニョ言っていると、心配した夫に煽られ仕方なく病院に電話。助産師さんから「入院準備をして来てください」と言われ、いよいよガチ感が増してくる。既に入院バッグは作っているのに夫は旅行の前日よろしくバタバタと荷物を詰め始め、なんだかんだで1時間かけて出発。痛みはまだない。

「本当に破水してるのかな?」と半信半疑のまま、日曜朝6時のガラガラの道路を車で移動。いつもの1/3くらいの時間で病院に到着。人生初の総合病院の産科フロアに足を踏み入れる(今までは婦人科フロアだった)。早朝なので、院内は驚くほど静か。図書室のほうがもうちょっと音ある。

診察の結果、破水確定。

「本当に破水してた……!」とホッとする私。もう二度と尿漏れと間違えた女とは言わせない。

しかし、夫はあっさり帰され、私はそのまま入院。検査の影響で股から鮮血が出て、タオルを汚す。こんな時ながら、やっぱり男性医の内診は指がゴツい。こんな時ながら、神聖さよりエロが勝つ私の心である。

さらに、人生初の点滴ルートが左腕に挿入される。看護師さんに「いい血管ですね!」と褒められるものの、そんなことよりも針が刺さっている異物感のほうが恐ろしい。軽くめまいが襲ってきたが、いい大人なので悟られないように耐える。

その頃には、陣痛がじわじわと始まっていた。「いい波が来てますね!」と助産師さんに言われ、「イイ波ノってんね〜」のくだらないコールに脳内変換される。子宮口は1.5cmから3cmへとゆるやかに開いているらしい。

午前中は、分娩室で待機しながら「陣痛を促す活動」に励む。歩いたり、ロデオマシンに乗ったり、乳首マッサージをしたり、足湯をしたり。ここだけ聞くとちょっとした健康ランドのようだが、実際は「もっと痛くなれ!」と念じながらの作業である。

そんな努力の甲斐あって(?)、「バシャッ!」と完全に破水した。まさに想像通りのやつ。破水といったらこれ、のやつ。しかし、そこからが長かった。

BGMやアロマを流してみるも、陣痛は鈍い生理痛レベルのまま。「こんなもんなの?」と拍子抜けする。午後になり波は引きましたの一言で、分娩室から個室に移動することに。わずか数メートルの距離なのに、なぜか車椅子移動。病院のルールらしいが、「歩けるのにな……」と申し訳なさを感じる。

ちなみに、この病院では初産婦の無痛分娩はできない(経産婦からOKなことを知らずに分娩登録した)。そのため、意気揚々と用意していた10万円の無痛分娩費用は、個室代に回すことにしたのだが、結果的にこれは超英断だった。個室、最高。自由にげっぷもおならも電話もできる。

陣痛が来ないので、昼ご飯を食べ、仮眠を取り、NST(胎児心拍モニター)をつけ、トイレに行き、とダラダラ過ごす。特に何も起きない。だがしかし骨盤、背中、点滴ルートが痛くて横になれない。しかも、完全破水したせいで、羊水がジャブジャブと股から垂れ流れ続けている。破水パッドはすでに5枚目突入。

「お腹の中の羊水こんなに減って赤子は大丈夫なのか?」と不安になるが、助産師さんは「まだまだあるので大丈夫ですよ〜」と余裕の表情。母体ってすごい。

晩御飯はカレーとその他副菜やフルーツやもろもろ。病人ではないのでご飯が割と豪華で嬉しい。破水しているのに食事を普通に食べているが奇妙に感じる。「こんな状態でカレー食べてていいのか?」と股から水を垂れ流しつつ口から栄養を接種する。

結局、この日は本格的な陣痛が来ず、翌朝に陣痛促進剤を投与して出産することに。母の日に母になれなかったことにちょっと無念。万全な出産に備え体力温存のため、看護師さんから睡眠薬をもらう。母や夫と電話しつつ、個室ライフを満喫。

「いよいよ明日か……」とドキドキしつつ、今はただ点滴ルートの左腕が痛い。

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