育児日記0ヶ月1日目「トイレで意識を失う」

妊婦としての苦しみも出産という山場も乗り越えやっと終わったんだ……と安堵する間もなく、新たな日々が始まった。

看護師に「赤ちゃん見ますか?」と聞かれメガネを渡される。が、私は即答で「いいです」と断った。怖かったのだ。自分の体から本当に異物のような生命体が出てきたという事実を直視する勇気がなかった。

そしてそれどころではない事態は続く。

脈拍が160という異常値が治らず、看護師の手を取りトイレに立った際に意識を失いぶっ倒れた。一瞬で目が覚めたが、気づけばトイレに何人もの看護師がワラワラといて事態が飲み込めず驚く。「見えますか?わかりますか?」と心配顔の看護師に対して「え、はい」と普通ぶるが、結局私は即座にベッドに固定され、尿カテーテルをつけられた。「新生児を抱く」とか「感動の対面」とか、そんな次元ではない。股の痛みと点滴の管の違和感に悶絶しながら、ただ天井を見つめるしかなかった。

そして、汗。とにかく汗をかいた。出産という運動で大量にかいた汗が、シャワーも浴びられずそのまま体にまとわりつく。気持ち悪い。もう夜が来たのに、寝られない。疲労困憊のはずなのに、目を閉じると出産の光景がフラッシュバックし、涙が出る。

「こんなに痛いのに保険適用外なのか?」とふと我に返る。異常なく健康的に産んだのに、異常があったほうが保険が下りてお金がもらえるとは。世の中のシステムを恨みつつ、私は疲れた体を動かさないようにただ真夜中に一人呆然としていたのであった。

こうして出産当日はなにひとつ育児をすることなく終わったのである。

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