相変わらず、自宅安静という名の公的ぐうたら生活。
朝8時に起き出して、のっそのっそと朝食をとり、9時には血糖値も上がって「もう一眠りするか」と二度寝コースへ。12時に夫に起こされて昼ごはん。その後昼寝をして夕方頃に起きておやつを食べ、18時までは覚醒して何かしらをする。その後ちょっと休憩がてら寝込み、20時〜21時に晩ごはんを食べ、お風呂に入り、そこからずっと起き続ける。これがいまの私の日常。いやはやなんとも。
このところお腹はより大きくなり、ついにはへそがひっくり返ってデベソになってしまった。今まで埋もれていた皮膚が擦れるのは気持ち悪く、以降お腹を撫でるにしても頂点は「さわるな要注意」となる。歩くときにはお腹を抱えて歩く方がラクという有り様(骨盤ベルトは毎回トイレの着脱がめんどくさくて使わなくなった)。今ではすっかり妊婦マークを持っていなくても一発で妊婦と分かる。
そしてついに妊娠線ができてしまった。ミミズ腫れみたいな“あれ”である。とはいえ上から見下ろしている分には全然気づかなくて、お風呂に入る前に服を脱いだ際、「うひょ〜お腹がすごい出てる!」と面白がって横から下から上から、角度を変えて自撮りしていたときに発見した。なのでいつできていたのか全く分からず。
割と評価が高い妊娠線予防クリームを使っていたのに!風呂上がりにミルクもオイルも塗りたくっていたのに!こうなるともう、開き直るしかない。今さら1本も5本も同じよね、と考えが雑になり、今ではニベアやらハトムギやら、ドラストのコスパ戦士たちを気休めに塗り続けている。モデルじゃあるまいし、20代ですら水着もへそ出しファッションも着なかった女が今更何を足掻くことがあろうか。
最近では、寝ているだけで足がつる。何もしてないのにつる。あの「ビキーン!」ってくるやつが1日に何回か訪れるのだが、重いお腹が邪魔して身動きが取れないため、じっと悶絶するしかなく地味に辛い。
そして胎動。ちょっと前はおならと勘違いするくらいの主張だったのに対し、今では「うにょ〜ん」だの「ドドドドド」だの、可愛いとは到底思えないホラーに近い動きをかましてくる。内側からのびのびと手足を伸ばしているのか、私のお腹の皮膚が限界まで引き伸ばされることになり「おい破けるぞ」と真剣に訴える日々。優しい声で「〇〇くん元気だね〜」なんて言う余裕などなく、「お願い、それやめて…」と切実に懇願している私がいる。
そんな日々ではあるけれど、妊娠仲間と電話したり、親しい友達や両親を家に招いたりと、臨月前に話したかった会いたかった人達と怒涛に交流を取り戻した時期でもあった。ソファに寝転がる私を中心に、みんなが椅子に座って私の腹を見ているというちんちくりんさはあったが。こうやって何にも邪魔されずゆったり大人のおしゃべりできるのは今度はいつになるだろう。そんな不安を片隅に、まるで5年会っていないかのような口ぶりで怒涛に喋りまくっていた。同じ話を何回しただろうか。
出産準備も本格化。世界一幸せと言われるベビー服の洗濯をした(夫は干す作業がちまちまと面倒で「世界一面倒くさい洗濯」と呼んでいた)。子ども部屋を作るべく、元は私の仕事部屋だった場所を一掃した。200冊あまりの本を電子書籍化し、むき出しだった猫トイレを赤子がいたずらしないように隠し、いろいろな物が詰まっていたクローゼットの中を整理し、昇降デスクを寝室に移動し…。ベビーグッズも並べられ、だんだんと「迎える部屋」が整っていく。
でも、その一方で作業遂行中はメンタルがガタガタだった。俗に言うマタニティブルーである。
なにしろ重い身体では作業も思うように進まず、「これ取って」「これ動かして」「あれ捨てて」と夫にいちいち頼まないといけない。私の体調がいいタイミングは決まって夫が仕事してる時間帯でもあるので、タイミングを見計らって頼むのも地味にストレスで、どんどん「やることは山程あるのに何も進んでない感」だけが蓄積する。一向に片付かない子ども部屋を眼の前にしてイライラが募り、刺々しい態度を懸念した夫に対して「だって片付かないんだもん!」と泣きながらぶちギレた。
今思えば「めっちゃ理不尽だったな」と冷静に考えられるし、何も大の大人が泣くことでもない。でも当時の私は本気で「手伝ってくれない=赤ちゃん迎える気がない」と思い込んでいた。ついでに夫が妊娠週数を把握していないことや、育児書を読もうとしないこと、自分だけが出産に対してリスクや負荷を負っていることなど、日々感じていた鬱憤もぶちまけて、「どうして私だけ…!」とギラギラな闘志で夫を睨みつけた。
突如ヒートアップした私を見て夫は「えぇ…」と引きながらも、事前に仕入れていた“マタニティブルー”の知識を総動員して、ひたすら謝罪&共感モードで私をなだめ、その夜私が寝っ転がっている間に黙々とお願いしていた作業を全て終わらせてくれていた。次の日、私はそのことをきれいさっぱり忘れていたので、スキャン用に積み上げられた紙の山を見て「え、なにこれ…?」と逆に引いた。ひどい話である。
そんなこんなで日々身体が重く苦しく、自由がきかない中で、希望と言えば無事に産み終わり元の自分一人だけの身体に戻ることであった。
でも、産むこと自体は怖いのである。
出産にまつわるエグい話をSNSで見ては青ざめ、死産レポで涙し、「ほんとに大丈夫?私ちゃんと産める?」と不安に苛まされる。どのくらい痛いんだろう?何時間かかる?陣痛がきたとき、冷静に時間を測れる?病院まで無事にたどり着ける?出産後子どもの泣き声が聞こえなかったらどうしよう。私自身は元気でいられるだろうか?命はあっても、障がいが残ったら?…怖い。怖すぎる。
早産傾向と診断されてからというもの、安全になるまで胎内に留めておく努力はするものの、予定日よりもきっと早く産まれてくるんだろうと信じて疑わなかった。そのためとある日、トイレに行った直後に洗面所に移動したところ、唐突に股からジョロジョロと水が出てきたことで我々夫婦は「ついに破水か…!?」と勘違いした。
「え?今トイレ行ったばっかだけど…?止めようと思っても止められない…」
こんなに尿意を感じず膀胱も股も馬鹿になることがあろうか。私の身体は一体どうなってしまったんだ。ほとほと情けなくなり、どっこいしょと床を片付けシャワーを浴びていると、普段はしない行動に夫が声をかけてきた。こうなったらネタにするしかないと笑いながら「ちょっとお漏らししちゃって…」と軽く言ったところ、夫が真剣な顔で「それ、破水じゃない?」と指摘した。
もしやまさか、でもまさかだったら怖いし、と恐る恐る病院に電話すると「念のため入院バッグを持って受診しにきてください」と言われる。余計に深刻さが増し、唐突に訪れたその時に胸をバクバクさせながら病院に向かった。羊水検査をしたところ、結果は陰性。つまり、ただのお漏らし。破水でも何でもなかった。私は盛大にお漏らしをしたことを病院に報告しに行ったのである。
「この時期の妊婦さんには、よくあることです。破水の場合、一度破水するとその後ずっと水が出てくるはずなので覚えておいてください」
「そうなんですか…へへ、すみません…」
と曖昧に笑い診察室を出たが、内心は猛烈に恥ずかしく、お漏らし判定に時間を費やしてしまった医者やその医者の診察を待っている妊婦に申し訳なく、過剰に心配した夫に全ての責任をなすりつけたく。この時期クリニック診察から病院診察に切り替わり、もっと色々病院での思い出もあったはずなのに、結局一番記憶に残る出来事になったのはこれだった。
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